MITSUBISHI CORPORATION FASHION

2021.10.27

MEDIA

三菱商事ファッション株式会社トップインタビュー

繊維ニュース 2021 年 10 月 27 日付

 三菱商事ファッションは、商社としていち早く3次元(3D)技術を活用した服作りの提案を開始した。これまでは独自素材の提案と生産拠点の確保で顧客と強固な関係を築いてきたが、さらに一段階進んだ提案で、時代のニーズの変化に対応する。生活者に近い位置での事業も視野に入れながら、商社機能の拡充を推し進める。

リードタイム短縮は不可欠

社長 村田 茂 氏

  ――アジアの生産体制はどのようになっていくと思いますか。

 新型コロナウイルス禍が長引き、依然として刻一刻と状況が変わる中、アパレル生産についてもさまざまな臨時対応をせざるを得ません。ASEANから中国への生産シフトもその一環だと捉えています。発注が集中している中国では価格も高騰していますが、それも一時的なものだと思います。確かに緊急事態に直面して混乱はしていますが、アジアの生産地としての競争力自体が損なわれたわけではないと考えます。

 当社はASEANを生産の中心に位置付けており、その方向性が変わることはないと思います。一方、中国についても、現地メーカーはコスト以外での優位性を持っていますから、新型コロナ禍の状況がどうあれ、こちらも関係性を変えるつもりはありません。

 ただし、大量生産・大量廃棄から脱却を図る動きが広がっていますので、アジアでの生産に関して「必要な分を必要な時に作る」という要求も増えています。ロット数量だけでなくリードタイムの要求にも応える必然性が高まっていくはずです。

生活者に近い立ち位置での事業も

  ――新型コロナ禍で大きく変わったこととは。

 最初に挙げられるのは働き方ですね。当社も在宅勤務を正式に導入しました。生産管理にもリモートを取り入れるなど、業務の変革にも乗り出しました。デジタルを有効活用できる部分が鮮明になったという印象を抱いています。

 お客さまのビジネス構造はそれほど変わっていませんが、新型コロナ禍によって国内マーケットの頭打ち感が一層強まりましたので、状況打開につながる要望が増えそうです。付加価値のある機能を提案することで要望に応えていきます。

  ――事業の現況は。

 上半期(4~9月)の業績は略想定内でした。しかし、マーケットは思った以上に回復せず、危機感はぬぐえません。大規模な投資をして新規の取り組みを始める状況ではありませんが、ただ我慢してやり過ごすのではなく、来期以降を見据えて提案力を磨く必要はあります。現場のスタッフが顧客やマーケットのニーズに応える提案ができるように、環境を整えていきます。

  ――繊維業界を挙げてサステイナビリティーの取り組みを推進する機運が高まっています。

 盛り上がるのは喜ばしいですが、サステイナビリティーの意義を考えなければなりません。立場によってサステイナビリティーという言葉の捉え方は変わります。このことを踏まえ、お客さまが打ち出すサステイナビリティーに対応していくのも商社の務めです。その中で、循環型社会の構築に寄与できるような商品を生み出せればいいですね。

  ――デジタル化について。

 昨年、CADパターンからECサイトへの商品掲載までの工程をデジタル化して利益改善につなげる「3DCGデジタルスキーム」の提案を開始しました。将来に向けた重要な施策として先行投資をしましたが、想定していなかった新たなニーズが生まれたりしています。一方で、想定通りに進まなかった分野もありました。

 デジタルへの取り組みを通じて感じたのは、デジタル活用は推進するばかりでなく、事業の付加価値を高められるかという視点で取捨選択できる〝目利き〟の力も必要だということです。デジタル化を目的とせず、あくまでも事業目標を達成する手段だという意識を忘れてはなりません。

  ――今後の商社の在り方とは。

 OEM商社は黒子に徹するイメージを持たれています。今後は消費行動の変化に伴い、商社の立ち位置も生活者の近くに移っていくかもしれません。場合によっては、SPA企業などと一体となって課題解決に取り組むようなビジネスが増えることも考えられます。商品以外の部分で顧客の価値を向上させる施策も求められそうです。

「私のターニングポイント」

最初の配属から繊維一筋に

 「三菱商事に入社して繊維部門に配属されてから、この分野で生きてきた。最初の配属で方向性が決まった」と話す村田さん。一筋に歩いてきた世界について、「明確な形がなく、感性を取り扱うので難しい」と評する。驚いたり戸惑ったりすることも多かったが、他産業とは違う魅力も見つけている。「アパレルは基本的に人を傷つけることなく、至って平和な産業。その部分は自分の性格に合っていると思えるようになった」。

略歴 むらた・しげる 1988年三菱商事入社。2013年三菱商事ファッション取締役常務執行役員営業第三本部長、14年三菱商事アパレル部長、19年4月から現職。

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